3月公演ローラン・プティ振付「ノートルダム・ド・パリ」鑑賞前に知っておくと"ちょっとに役立つ情報"今回は登場人物についてです。
ヴィクトル・ユーゴーの同名の小説を原作としたこの作品は、ローラン・プティが1965年にパリ・オペラ座のために振付けたもの。バレエ版は、原作でも登場する4人の主たる登場人物を中心に据えることにより、物語をシンプルに、且つ原作の持つメッセージから人間の心に潜む愚かさ、弱さ、欲望、そして献身的な愛を見事に表現しています。
物語は、
カジモド
エスメラルダ
フロロ
フェビュス
を中心に展開します。
特にカジモドは心身にハンディを背負うがゆえの屈折した感情の動きが独特のスタイルで表現されます。
ちなみに、初演はローラン・プティ本人がカジモドを演じました。
1) カジモド
ノートルダム大聖堂に住む鐘つき男。
捨て子だった彼をフロロが拾い、大聖堂から外に出さずに育てたためフロロだけを慕う。二人の関係はまるで主人と飼い犬のよう。
背中にこぶがあり醜い、という設定をローラン・プティの振付では片腕を上げたスタイルで表現。片腕を上げることでバランスを崩しているその姿は、カジモドの容姿の醜さやバランスを欠いた心を表しています。本当はとても心が美しい青年です。
物語冒頭、民衆の中に登場するシーンでは道化祭でおどけたしぐさを競い合っていた民衆(狂民)に、道化の王と嘲笑されます。
民衆はカジモドの醜い姿をあざ笑っているんですね。ところがカジモドは戸惑いつつもうれしそうな反応をします。フロロ以外の人と接したことがないから反応の仕方が分からないのかも知れません。
その後エスメラルダと出会い人のやさしさに触れることで、見た目は醜いけれども清らかな心を持ったカジモドの心に変化があります。
エスメラルダに対する愛、守りたい思い。心情の変化を感じ取っていただけたら嬉しいです。
2) エスメラルダ
写真は、2016年牧阿佐美バレヱ団「ノートルダム・ド・パリ」よりニコレッタ・マンニ
ひときわ美しいジプシーの娘。フェビュス、カジモド、フロロの3人から思いを寄せられます。
タンバリンを持って民衆の中から登場するシーンはとても印象的。エスメラルダのミューズとしての存在感が際立ちます。
兵士に痛めつけられるカジモドを見て水を差しだすなどやさしい心を持つエスメラルダですが、美しい隊長フェビュスに恋をしてしまいます。たくさんの男性に愛されますが偽りの罪をきせられて最後は悲劇の死をとげます。
こんなに美しく妖艶に舞う、心の清らかな女性が幸せになれないのは切ないですね。
ちなみに、バレエでエスメラルダというとコンクールで人気の作品を思い出しますよね。
エスメラルダは知っているけれども、全幕作品として「ノートルダム・ド・パリ」は見たことがない、という方も多いのではないでしょうか。
ローラン・プティ振付「ノートルダム・ド・パリ」のエスメラルダの踊りはコンクールで見る「タンバリン・エスメ」とは異なります。
それでも全幕作品を知ることで、「エスメラルダ」を踊るときに妖艶で華やかなだけでなく、どこか哀しみを漂わせるなど物語を感じることができるかも知れませんね。
今回エスメラルダ役として登場するのは、
カザフスタン国立アスタナ・オペラ・バレエ団プリンシパル
アイゲリム・ベケターエワ(ゲストダンサー)
3) フェビュス
美男の隊長、色男です。
ローラン・プティ版では鮮やかな金髪が特徴的。マントをひるがえしヒーローさながらの登場シーンです。
エスメラルダはその美しさに惹かれてしまいますが、フェビュスは軽薄な男。
(ちなみにバレエでは詳細には描かれませんがユーゴ―の原作では既に婚約者がいる設定です。)
たくさんの男性に愛されるエスメラルダですが、身勝手なフェビュスに恋をして嫉妬深いフロロに裏切られるというストーリー。
今回フェビュス役として登場するのは、
カザフスタン国立アスタナ・オペラ・バレエ団プリンシパル
アルマン・ウラーゾフ(ゲストダンサー)
4) フロロ
ノートルダム大聖堂の司教代理です。
真っ黒な衣装に特徴的なメイク。道化祭で踊り狂う民衆を制する「権力」の象徴のような登場シーン。
聖職者でありながら、ノートルダム大聖堂前の広場で踊るエスメラルダを見かけてからというもの、タンバリンの音が耳から離れず耐え難い妄想のように頭の中で鳴り響いています。かなり気持ち悪い設定です。
カジモドに命じてエスメラルダを誘拐させようとしたり、逢引するエスメラルダとフェビュスの後をつけ狙うところなど不気味です。
エスメラルダに欲望を抱き力づくで彼女を我が物にしようとしますが、拒絶され我を忘れてしまいます。
性格はずる賢く冷酷。
心の中は聖職者としての自我とエスメラルダに対する欲情という矛盾を抱えている、とても複雑な人物です。
いかがでしたか?
次回は、上記4人の主役とは別にもう一人、とても重要な登場人物、そう「民衆」をご紹介します。
ローラン・プティの作品では、時に主役以上に物語を語る存在がコール・ド・バレエ。
その存在なしにこの作品を語ることはできません。
どうぞお楽しみに。
3月公演ローラン・プティ振付「ノートルダム・ド・パリ」鑑賞前に知っておくと"ちょっとに役立つ情報"
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■1分で分かるあらすじ「ノートルダム・ド・パリ」【前編】
■1分で分かるあらすじ「ノートルダム・ド・パリ」【後編】
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