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「角兵衛獅子」とは?(8月公演『サマー・バレエコンサート 2020』にて上演) <事務局>

『サマー・バレエコンサート 2020』チラシの表にある赤い群舞の写真が「角兵衛獅子(かくべえじし)」より。

「えー!なになにー!バレエなのに和ものなの?」と不思議に思われた方もいらっしゃるかも知れません。和服を着たダンサーが踊る大変珍しい演目です。なぜ今回の8月公演で上演するか?というと、ちょっと思いがあるんです。

理由その① 日本のバレエ作品だから

角兵衛獅子(かくべえじし)は、新潟県新潟市南区(旧西蒲原郡月潟村)を発祥とする郷土芸能で、子供を中心として演じられた獅子舞の大道芸です。

バレエ「角兵衛獅子」はこの郷土芸能を題材に橘秋子演出・振付で1963年に初演されました(作曲:山内正)。

橘秋子(牧阿佐美先生のお母さん)は「日本のバレエ」を意欲的に創作、日本古代における貴族世界を描く「飛鳥物語」に続き日本を舞台にした全幕バレエ2作目として制作されたのが本作「角兵衛獅子(かくべえじし)」です。

 

理由その② 「祈りの炎を表現する赤いさらしを振る群舞」をぜひ見てほしいから

日本では昔からお赤飯をお祝いの時に食べたり、特別な時に赤を使いますよね。古来赤い色は邪気を払うと言われていたようです。赤い鳥居の色も、邪気を寄せ付けないように神聖な神様の領域と俗世を区別する意味で用いられていたのですね。「角兵衛獅子」の見せ場の一つ、赤いさらしを振る群舞は「祈りの炎」を表現しているそう。

 

日本の踊りをテーマにバレエで表現するところ、そしてコロナ禍において芸術の火が消えないように感染症拡大防止も祈念して上演したい、そんな思いもあります。

 

※2010年12月新潟シティバレエで上演された際のインタビュー記事がありましたので、こちらも併せてどうぞ。

 

新潟県文化振興課WEBサイト「新潟文化物語」

file-82 舞踊芸術の世界(後編) 新潟を舞台にした創作バレエ「角兵衛獅子」

https://n-story.jp/topic/82/page1

 

実は「角兵衛獅子」は今年4月に予定されていた橘バレヱ学校創立70周年記念公演で上演予定でした。残念ながら公演は延期となり、延期公演での「角兵衛獅子」の上演は時間の都合によりなくなってしまいました。

牧阿佐美バレヱ団のダンサーも多く輩出してきた伝統あるバレエ学校、橘バレヱ学校。橘バレヱ学校を設立した橘秋子先生の作品を上演したい、ということから予定されていた演目。今回のガラで再び上演機会を得ることができたことも、とても嬉しいことだと思っています。

 

8月公演「サマー・バレエコンサート 2020」

今しか見ることのできない貴重なラインナップとなっております。

どうぞお見逃しなく。

 

WEBサイトはこちらから

https://www.ambt.jp/summerballet2020/

 

■角兵衛獅子の題材と舞台背景

 

江戸末期、武家政治から町人社会へと変遷した時代、庶民に親しまれていた純情可憐な子供の旅芸人「角兵衛獅子」。角兵衛獅子は戦乱や病により親を亡くしたり、口減らしのため親方に預けられた子供たちでした。諸国巡りの際、関所で手形を役人に見せる必要はなく、角兵衛獅子の服装のまま通行が許されたほど愛されていたといいます。

一年中旅をしている子供たちが、年に一度だけ月潟村の地蔵祭りで帰省し獅子舞を競演します。この地蔵祭りは角兵衛獅子の子供たちのために行われ、晴れがましく着飾った子供たちの獅子舞は気迫に満ちたものだったといいます。この盛大な祭りを聞きつけて、子供をさらわれたり里子に出したまま行方が分からなくなった気の毒な母親が母子対面の奇縁を願ってはるばる諸国から集まってきました。

角兵衛獅子の子供たちも今年こそは実父母に巡り合えるのではないかと、はかない望みを抱き必ず地蔵祭りの日には月潟村へ帰って来るのでした。

作品で描かれるのは角兵衛獅子の姉妹の母への追慕、見知らぬ土地を旅する孤独、そこで出会った人たちとの友情。

どんなに不幸でも夢を捨てない子供の命が作者の郷愁をこめてうたわれています。

 

「角兵衛獅子」は今から57年前、1963年11月、牧阿佐美バレヱ団第9回定期公演・第18回文部省芸術祭参加特別公演(サンケイホール)で初演されて以来、翌1964年10月、1964年オリンピック東京大会組織委員会協賛芸術展示 牧阿佐美バレヱ団特別公演(サンケイホール)で上演されて以降何度か上演されていますが、1978年7月の第1回海外公演(ロンドン・ウィンブルドン劇場、ミラノ、ローマ、ニース、テル・アビブ他 20市41公演)で2幕のみ上演されたのを最後に、牧阿佐美バレヱ団としての上演はありませんでした。

 

牧阿佐美バレヱ団としては、なんと、42年ぶりの上演です。

 

『牧阿佐美バレヱ団60年史』より 「角兵衛獅子」初演時の公演ポスター

■物語(2幕のみ)

 

 旅から旅へと渡り歩く角兵衛獅子の姉妹と子供たちが今年も月潟村に帰ってきました。地蔵尊では例年の地蔵祭りが華やかに催されようとしています。親を知らない角兵衛獅子の子供たちは、今年こそは実父母に会えるかもしれないと弾んだ気持ちでいます。巡り会えた母子が喜んで抱き合う光景もみられるなか、祭の最大の呼び物である子供たちの獅子舞の競演が始まります。

 姉妹は今年もとうとう母に会うことは叶いませんでした。そこに、旅先の江戸で出会った虚無僧が現れ、姉に土産のかんざしを渡します。

 ほのかな恋心を抱いていた姉は感激に浸りますが、その様子を親方に見られ、罵られ、虚無僧は再び去っていきました。姉妹は、こみあげる父母への慕情や哀しみを振り払うように、激しくさらしを振りながら、暮れようとする境内で踊るのでした。

 

■角兵衛獅子について

 

 角兵衛獅子(越後獅子とも呼ばれる)は江戸時代、新潟の月潟村を発祥とする大道芸。演じていたのは子供たちで、服装は縞模様のもんぺと胸に小さい腹当てを着け、頭に鶏の羽毛を縫い付けた獅子頭と赤い布を被り、高下駄を履いた可憐な姿。大人の親方の笛や太鼓の演奏で、様々な舞や曲芸を披露して各地をまわる旅芸人でした。明治時代に入ると衰退しますが、現在は郷土芸能として受け継がれ、新潟市の無形民俗文化財に指定されています。

 角兵衛獅子を題材とした作品としては、江戸時代に地歌「越後獅子」が作られ、後に三代目中村歌右衛門によって中村座で初演された歌舞伎舞踊のほか、大佛次郎の小説「鞍馬天狗」シリーズの一作「角兵衛獅子」があります。角兵衛獅子の少年・杉作が登場する物語は、美空ひばりが主演し挿入歌を歌った映画でもよく知られています。

 

牧阿佐美バレヱ団 定期会員のためのバレエ雑誌「バレエフレンド」より 「角兵衛獅子」発祥の地月潟を訪ねる橘秋子